到着は夕刻になったのだが、バスがひと山超える度に、確かに風が心地よさを増し、日差しも柔らかく感じられるようになった。
ちなみにミャンマーのバスは日本の中古のものが多く、20年・30年以上前の年代物ばかりだ。しかも道路はまともに舗装されておらず、下手に眠ろうものなら椅子から転げ落ちそうなほど揺れるハードな旅路を提供してくれる。もちろん他の東南アジアの国々も大概似たり寄ったりだが、おそらくミャンマーの交通網はなかでも最悪だろう。ラオス以下である。
だがそのおかげでバス酔いせずに済んでいるという気もする。なにせスピードが出せないものだから、三半規管に異常をきたすほど、目が回るような場面はないのだ。
もちろん時間はかかる。走っているのが奇跡のようなバスが、あぜ道のような道路を200kmも300kmも走るのだ。エアコンの利いた車内でリクライニング・シートに座ってくつろげれば、疲労も少ないのだろうが、そんなわけはなく、クッションはあるものの、1mmたりとも動かない背もたれに、シートの幅は戦後間もない頃の小柄な日本人サイズに設計されているためか、明らかに私は収まることが出来ない。さらに常に膝が前の椅子にぶつかっていなければならないほど、シート間の隙間もない。エアコンはなく、開け放たれた窓からは土煙と真っ黒な排ガスが流れ込んでくるのだ。そんなバスに10時間も乗っていると、それだけで寿命が縮むのじゃないかと思う。
到着した当日とその翌日は、何をするでもなく、ぼんやりと過ごしたが、三日目・四日目はトレッキングにボート・ツアーと、最近では珍しくアクティブに行動した。やるときゃ、やるよ。
トレッキングは雨宿りに寄ったレストランの主人に誘われ、たまには良いかと思いついて行ってみた。それはトレッキングというほどのものではなく、5時間程度の行程ではあったが、いくつかの村や、洞窟のなかの仏像、山腹の寺院などを訪ねて歩くのは、なかなか楽しかった。3ヶ月ぶりに靴を履いちゃったよ。捨てないで良かった(笑)。
その翌日は宿で手配してくれたボート・ツアーに欧米人のカップルと三人で参加した。日差しがきつかったが、湖畔で暮らす人々の生活や、漁の様子などは、どれもめずらしく、飽きることがなかった。途中で寄った村の市場は、あまり賑わってなく、少し残念だったが、どんな小さな村にも場違いなほど立派な寺院や仏塔があり、ここでもミャンマーの人々の深い信仰心を目の当たりにした。
一緒に行動したカップルがとにかく誰にでも「ハロー、ミンガラーパー」っと声をかけ、かけられた方もおよそほとんどの人が手を振って答えてくれるのが、うれしかった。二人は英語が不得手な私にも根気よく話しかけてくれた。ありがたい話だ。こんな時だけは閉じていた五感が、恐る恐る顔を覗かせる気がする。