既にシェリムアップ滞在6日目だ。月曜には移動しようとは思っているが、それでもこの旅の最長滞在地になる。アンコール・ワットなどの遺跡に時間をとられているわけではない。それは三日目ぐらいには、十分に巡れた。カンボジアの居心地がよいのだ。それと宿で出会った若い日本人旅行者と行動を共にするのが楽しくて、つい長居してしまっているというのもある。
花田さんは広告関係の企業に勤める会社員だが、学生のころから国内外を旅し、現在も仕事を調整しながら、時折旅に出る24歳のバックパッカーだ。たまたまゲストハウスにチェックインした日時が私と重なり、またゲストハウスに併設するレストランでビールを堪能していたフリーのジャーナリストの塩田さんとの出会いもあり、今日に至るまで一緒に観光したり、夜は飲んだりしている。他にも薬学部に通う学生さんや、二人で放浪の旅をしている佐賀県人など、急に友人が増えて少々戸惑いつつも、もちまえの流れに身を任せる姿勢で、ぬくぬくとシェリムアップを堪能している。
シェリムアップはアンコール・ワットを代表とする数々の遺跡があることから、カンボジア有数の観光地であり、町にはたくさんのゲストハウスから高級ホテル、お土産屋さん、レストランなどが軒を連ねている。町自体は歩いて回りきれるほどのものであり、比較的、町の外側に位置する現在宿泊中の宿からでも10数分ほどで中心地にあるマーケットまで歩いていける。治安もよく、海外旅行の基本的な注意事項さえ守っていれば、特に危険はないと思われる。カンボジアを取材している塩田さんのお墨付きなので間違いないであろう。
そんなわけで朝から晩まで、遊び歩いているので、なかなかブログも更新できずにいた。もちろんその間、愉快なエピソードは盛りだくさんで、とてもここに書ききれないほどだ。
アンコール・ワットを初めとする、数々の遺跡はどれもすばらしく、当時の巨大な文明を想像させた。しかしトゥクトゥクでのツアーは、いっぺんに数箇所をまわってしまうため、遺跡が非常に広大であることや、強力な日差しによる暑さもあって、数を重ねるごとに、感動が薄れていくようで、そういう意味では、レンタサイクルでもうすこしゆっくりまわるのもありだなっと思った。
むしろ10数名でバスをチャーターして向かったベンメリアという郊外の遺跡が、人も少なく、探検気分で崩れかけた遺跡を巡れて、非常に楽しかった。まるでインディ・ジョーンズやトゥーム・レイダーのような世界に浸れた。
その日の夕方には、塩田さんの紹介で花田さんと私の三人で、孤児院に遊びに行った。観光産業が発達し、主に外国人が訪れるレストランでも現地の人が食事をしていることもあるシェリムアップだが、裕福な人が増える一方、依然として貧困層も存在しており、経済発展と共に、貧富の差は開き続けている。孤児院には戦争で両親を失った子供たちや、貧しさゆえに親に見離された子供たちが、いまでも後をたたない。
暗い過去や不安定な未来にあって、しかし子供たちの元気いっぱいなキラキラとした目は失われない。最初は、特に子供たちとの触れ合う機会のない私の戸惑いもあってか、なかなかなじめなかったが、ひとたび仲良くなってからは、拷問のような子供たちからの攻撃で、翌日は筋肉痛になるほどだった。遊んでくれたのは、5歳ぐらいの子達だと思うのだが、まぁ、飽きもせず同じ遊びをひたすら繰り返させるのである。特に効いたのは、最初、子供たちと目線を合わせようと、しゃがんで鬼ごっこみたいなことを始めたのだが、ちょうど蛙のようなスタイルになったことから、子供たちから「かえる」と呼ばれ、疲れて立ち上がると、「カエルやって、カエルやって」っと懇願されるので、しかたなく何度も繰り返し、久しぶりにTシャツがしぼれるほどの汗をかくまで、カエルをやりとおすことになってしまった。
いやしかし、疲れた。しかし子供たちの笑顔は、忘れられない思い出になった。なによりたくさんのあふれんばかりの元気を分けてもらった。これをただの思い出として終わらせたくない。とはいっても直接、私が彼らを支援するわけではない。私のこれからの人生を通じて、彼らに何かお返しが出来ればと思う。