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GREEN HOUSE RESTRANT

 午後8時を過ぎて、ふと深夜の空腹に不安を思い、さしせまった餓えは感じないものの、近所のレストランへでも行こうとベッドを離れると、ちょうど宿の同室のやや年輩のナニ人かわからないおじさんも出かけるところだった。
 ドミトリー・ルームの施錠に手間取い、少し遅れて宿をでると、道は真っ暗で霧が立ちこめていた。霧の夜道を一人でウロウロする気にはならなかったので、最寄りのレストランに入ると満員だった。仕方なく少し歩くと、ダージリンでも珍しいだろう白熱灯の穏やかな灯りを見いだした。ドアを開けると老婆と少女が困惑げな表情を見せて、モモ(餃子のようなもの)なら用意できる旨をたどたどしい英語で伝えてきた。
 もとより寝るまでの数時間を"もたせる"ための軽食のつもりだったので、モモでよいと言ってなかへ入ると、同室のおじさんが、予約でもしたのだろうか、豪華な夕食を既に食べ始めていた。
 店の奥からあらわれた青年が、少し待てばチョウメン(焼きそばのようなもの)をだせるというので、それではチョウメンをと頼むと、さっそく奥で調理を始めたようだった。
 簡素な店内でひときわ目立ったのは、正面に飾られたブランコで仲むつましい様子の姉弟の絵画だったが、私の目を引いたのは横の壁に貼られた寺院の写真のプリントだった。湖の畔にたたずむ寺院には多くの信徒が参拝に向かっている。
 気になったので席を立って眺めていると、調理場から出てきた青年が、カトマンドゥのヒンドゥー寺院だと説明してくれた。建物の作りや、またレストランの(おそらく)一家がチベット系であることから仏教寺院だと早合点していたため、その説明は意外だった。
 しばらくして料理がきた。即興でだされたそれは何とも味気なく…、っというか不味かった。ケチャップで無理に味を殺して食べたが、隣のおじさんの晩餐とは比較のしようもないほど粗末で、相席にしなくて良かったと、心から思ったほどだった。
 青年は笑顔でおいしいか?っと尋ねた。私はおいしいよ、っと答えた。老婆と目が合うと、にっこりと笑顔が送られてきた。少女が水を持ってきた。水は外国人である私のために湯冷ましを用意したのだろう、コップの縁に水滴があり、まだ生温かった。ありがとう、と言うと、少女も消え入るような小さな声で、どういたしまして、と笑顔で言った。
 仏陀の言葉に思い至った。正確には忘れたが、自ら得たものを蔑ろにするな、他人の得たものを羨むな、といった内容であった。厳しい自然にさらされ、餓えと渇きのはてに、僅かな施しだけを得、修行を続けなければならない者の掟だったのかもしれない。
 私は修行僧でもないし、さほど空腹でもない。私の得た食事は私の払う対価によってもたらされたものだ。そしてその対価の元は、どこかの誰かが揺るぎなく築き上げた階層構造を基盤に、会社組織に裏付けられた立場を楯にとって、逆らうことの出来ない下層から絞り上げた金だ。
 外にでると、霧ははれていたが、まだ湿った冷たい風が肌をなでた。旅を続けるほどに消えない罪悪感を胸に、夜道をひとり歩いた。

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